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膝関節痛

 針灸・施術不適応の膝痛疾患

膝関節症は急性と慢性に大別します。急性は、発症のきっかけが明瞭であり、外傷性(スポーツ外傷打撲)によるので、膝内障の可能性があります。膝内障とは、膝関節構造に直接関係した部分の障害であり、前後の十字靱帯損傷、内外の半月板損傷の総称をいいます。膝内障の重度障害は外科手術の対象となります。軽~中度障害は整形外科で保存的療法を行うので、まったく針灸不適応とまではいえませんが、鍼灸整骨院では障害の程度判断が難しいので、整形外科に診断を仰いでからの治療となります。

 

膝関節が発赤して熱感のあるのは、化膿性関節炎などの急性炎症性関節炎を考えるべきで、針灸及び施術治療は禁忌です。慢性的なの、直接的な受傷機転がないのが治療の適応であり、変形性使い過ぎ症候群が最適応疾患です。

 

  1. 半月板損傷

 

2)原因

スポーツ時に膝に外力が加わり、過剰な運動を強制されたときに起こりすいです。わが国では外側半月板損傷が多い(世界的には内側半月板損傷の方が多い)。加わる外力によって、縦断裂、横断裂、水平断裂、さらに半月板付着部の剥離が生じます。

 

3)症状・所見

突然、膝の激痛が生じ、活動を停止する重篤感があります。2~3時間後には膝関節腫脹し、膝関節の嵌頓が出現します。そのほかに疼痛、弾撥現象、雑音、膝折れ(膝くずれ)現象が特徴。血腫は少ないようです。内側半月板損傷時の圧痛は内側関節裂隙の後方に、外側半月板損傷時の圧痛は外側関節裂隙の前方に観られます。軽度断裂では、受傷機転不で、膝にひっかかり感が生ずる者もいます。

 

 

2. 靱帯損傷

1)膝の靱帯の役割

膝には大きな体重負荷がかかるので、関節は強力に靱帯補強されています。前方への動揺防止目的に前十字靱帯、後方への動揺防止目的に後十字靱帯があります。外反動揺防止に内側側副靱帯、内反動揺防止に外側側副靱帯があります。

 

2)側副靱帯損傷

 

①原因

a.内側側副靱帯損傷:膝の靱帯損傷の8割を占るのが内側側副靱帯損傷。外反が強制されて発症します。※複合損傷としては、内側側副靱帯損傷は、前十字靱帯損傷と合併が多いようです。これら2者に内側半月板損傷が加わったのが、膝の代表的な重症な外傷で、Unhappy triad(不幸の三角形)とよばれます。なお単独の損傷で、側副靱帯損傷は外側より内側が多く、十字靱帯損傷は後より前が多く、半月板損傷は外側より内側が多いようです。

b.外側側副靱帯損傷:頻度は少ない。膝の内側から外力が加わり、内反が強制されて起こります。またO脚など膝の内反変形に伴い、疲労性炎症として生じます。

②症状・所見

膝の疼痛、側方不安定感、靱帯部の圧痛がられ、陳旧化すると動揺関節を呈します。

第1度:靱帯線維の一部断裂。

外反・内反強制テストは正常。不安定感なし。保存療法実施。針灸適応。

第2度:靱帯断裂あるが連続性ある。

膝 30 度屈曲位にての強制内反外反テスト(+)、膝伸展位では正常。保存療法にて治療

第3度:靱帯の完全断裂で不安定性があります。膝伸展位にての強制内反外反テスト(+)。

普通は保存療法でいいですが、手術の適応になることあります。

 

3)十字靱帯損傷 Cruciate ligament injury

①症状・所見:前十字靱帯損傷は、ジャンプ時の着地、急激なストップ、ターンなど、非接触損傷が特徴です。後十字靱帯損傷の頻度は少ないです。損傷時は、激痛と関節内血腫(必発)が起こります。圧痛点は判然としません。前十字靱帯損傷は、内側側副靱帯損傷に次いで多い疾患。

 

3.膝蓋骨軟骨化症 Chondromalacia patella

1)病態

ランナー膝(長距離ランニング等によって発生した使いすぎ over-use による膝の障害)の代表的疾患。スポーツをしている10才台の女子に好発します。膝蓋骨の軟骨と、それに対する大腿骨の軟骨が作る関節を、膝蓋大腿関節といいます。膝蓋骨の裏面はV字型に隆起しており、それが大腿骨のV字型の溝を滑走するが、この時かなり大きな圧力を受けます。(体重 60Kg の人が深くしゃがみ込む場合、膝蓋骨の軟骨には 420kg の圧力が作用します)。

膝蓋骨裏面の軟骨は、日中活動すれば軟骨は摩耗し、夜間就寝中に軟骨は元の状態で増殖することで恒常性を保ちますが、膝の過使用でこのバランスが崩れ、膝蓋骨裏面にある軟骨が毛ばたつような形になり、軟骨面が凹凸を形成するようになります。

2)症状・所見

階段、坂道の特に上るとき、立ち上がるときに起こる膝蓋骨の裏その周囲の痛み。

膝蓋骨圧迫テスト(+):膝蓋-大腿関節の変形をみるテスト。膝蓋骨を圧迫しながら、上下左右に動かした際、関節面が変形しているため、膝蓋骨底の捻髪感(ザラツキ感)を感じます。多くの場合は、その際に被験者は痛みを感じます。膝OAのほか、膝関節軟骨化症で陽性となります。

 

3)針灸治療

大腿四頭筋の緊張緩和することで、膝蓋大腿靱帯に加わる圧力を弱る目的で、四頭筋の膝蓋骨付着部四頭筋モーターポイントへ刺針することになります。滑液は関節包内層の滑膜から分泌されますが、針灸刺激で滑膜を刺激して滑液分泌を促す期待から、大腿膝蓋関節の関節裂隙(内膝蓋穴)に刺針すること多いです。

 

4.鵞足炎 Pes anserinus bursitis

1)鵞足とは

膝関節屈筋腱である半腱様筋、薄筋、縫工筋の脛骨付近部の腱組織のこと。ガチョウの足のように、末端が開いていることから名付けられました。

2)病態

ランナー膝の一つ。鵞足部の腱付着部症である。膝関節の内側側副靱帯との間には鵞足包があり、脛骨顆部内側で鵞足が滑液包と摩擦することで、炎症を起こしている滑液包炎の合併があります。

3)症状・所見

階段昇降時急激な立ち上がり動作、しゃがみこみ動作時の、鵞足部の痛み。鵞足部に腫脹と圧痛がある。炎症が高度になると局所の腫脹滑液貯留られます(鵞足滑液包炎)。

 

5.腸脛靱帯炎

※大腿筋膜張筋

起始:上前腸骨棘~ 停止:腸脛靱帯。 上殿神経(運動性)支配。腸脛靱帯を緊張させ、膝関節を固定する作用があります。

 

1)病態

過使用による局所の炎症で、ランナー膝の一つ。ランニング中に膝の屈伸を繰り返すことによって腸脛靭帯が大腿外側上顆部で擦れ、炎症を起こします。

 

2)症状:運動時の膝の大腿外側上顆部の痛み

 

6.膝蓋靱帯炎(ジャンパー膝)Jumpers knee

1)病態

バレーボールなどでジャンプするスポーツ選手に多発します。激しいジャンプの繰り返しにより、膝蓋靱帯に過大な負荷がかかり、膠原線維の小断裂、循環障害など膝蓋靱帯付着部症としての病態が生じます。大腿四頭筋腱付着部症が併発すること多いようです。

2)症状・所見

膝蓋骨下、膝蓋骨上端に限局する圧痛運動痛、自発痛

 

7.平泳ぎ膝

1)病態

平泳ぎの際のキックにより、膝内側側副靱帯に繰り返し張力が加わり、脛骨付着部炎を生じたもの。

2)症状:内側側副靱帯の脛骨付着部の痛み

 

8.オスグッド・シュラッター病 Osgood-Schlatter 病

1)病態

成長期(10 ~ 15 才頃)に脛骨粗面の膝蓋靱帯付着部に、スポーツなどで繰り返し牽引力が加わることで生ずる軟部組織の炎症。大腿四頭筋による同部の牽引、外傷慢性機械的刺激が原因。

2)所見:脛骨粗面部の圧痛、運動痛、腫脹、熱感がみられます。

 

9.タナ障害(滑膜ヒダ症候群)Patella plica syndrome

1)病態

関節腔の内側には滑膜がありますが、胎生期のなごりとして約半数の者の滑膜はヒダ状になっています。とくに蓋骨内下方と大腿骨の間にあるのが内側膝蓋膜ヒダの部分が障害を受けやすくなります。見かけ上、棚に似ていることからタナと呼ばれる部分です。軽微な外傷(打撲捻挫など)膝の酷使によってタナが慢性的に刺激を受け、タナが肥厚、硬化し、膝蓋骨と大腿骨の間に挟込れて症状を引き起こした状態がタナ症候群です。15~25歳での若年女性に多くみられます。

2)症状

タナが運動時に膝蓋大腿関節に挟込れたときに違和感ひっかかり感を生じます。長期間放置すると、安静時痛起立時に重苦しさが残り、疼痛が持続し、スポーツ活動に支障をきたします。

膝屈伸時にクリック(“コクン、コクン”と音がする)を生じたり、膝蓋骨内側下部に圧痛、索状物たは腫瘤を触れたりすることがあります。

 

10.ベーカー嚢腫(膝窩嚢腫)Baker`s cyst

1)病理

膝関節周囲には、いくつの滑液包があり、運動に伴う靱帯間の摩擦を減らす役割をしています。その中の一つで、膝窩部の腓腹筋・半膜様筋滑液包が何らかの原因で炎症を起こし、異常に滑液を産生した結果、膝の裏側の関節腔から滑液包が袋状に飛び出し、膝窩部が水腫状態になったのをベーカー嚢腫とよびます。滑液の流れは、膝関節腔から滑液包へと一方通行の流れになります。変形性膝関節症、関節リウマチ、半月板損傷、膝のオーバーユースといった膝の関節炎を合併しやすくなります。50歳以上の者に好発します。

2)症状

膝窩に卵の大きさ位で、触るとプヨプヨした水腫がみられます。膝を曲げる際に膝裏の圧迫感不快感を生じ、正座和式トイレで緊張感がでます。痛みはあまりありません。

 

 変形性膝関節症の針灸診療

 

1.変形性膝関節症 Osteoarthritis (膝OA)の概念

中年期(40台)以降、とくに女性肥満者に、非常に多い退行性疾患で65才以上で急増します。90 %が一次性(原発性)。二次性の原疾患としては、半月板損傷、靱帯損傷、化膿性関節炎、関節リウマチ、骨折脱臼などがあります。本症は針灸の最適応症ですが、高度の膝関節変形は不適応で、整形での手術療法しか方法はないようです。一般に 75 歳を超えると針灸効きが悪くなります。

 

<関節症の病理変化>

①関節滑膜の肥厚 ②関節軟骨の摩耗③関節裂隙の狭小 ④骨棘形成⑤O脚


痛み以外の主な所見と対処法

 

1)関節水腫

①病理変化

加齢などによって関節表面の軟骨が摩耗し、軟骨表面の辷関節液量が増加 →関節水腫 →水腫により関節包内圧増加 →膝関節痛

※関節液穿刺で水を抜くと、関節包内圧が減るので一時的に痛は減るが、炎症が改善たわけでないので、再び水腫となりやすいです。

 

2)関節包の肥厚

慢性反復性刺激から関節包を守るため、関節包が肥厚関節包は次第に肥厚してきます。この結果、柔軟性が乏しくなり、ROM が制限されます。膝蓋跳動テスト(-)関節包の肥厚は、関節裂隙への刺針筋腱付着部への刺針を行っていると、膝関節可動域が増し、それとともに自然と関節の病的肥厚とれてきます。

 

3)膝関節のテーピング

大腿四頭筋力低下している者、膝蓋骨周囲に圧痛が出ている者に対しては、膝関節のテーピング治療を併用するのは良いのですが、テープにかぶれ易い者には施術できず、テープ固定することは皮膚表面の角質層を削ることなので、連用するには無理があります。要するに、初期治療の2~3回目でを目安に普通に行われるのは、キネシオテープを使い、脛骨粗面-内側広筋遠位部間と、脛骨粗面-外側広筋遠位部間をテーピングする方法で、四頭筋筋力の補助として機能させます。

 

【治療】:ファーストチョイスとして概ね急性期や化膿性の腫脹、疼痛は整形外科の領域であるので専門医にまず、診断を受けることが大事です。しかし、その危険性がない場合は、骨盤の捻じれ、傾き、それに伴う背骨の各椎体の捻じれ、側弯、足首(距骨、踵骨、足根骨、腓骨・・・)の捻じれ、位置異常が関係することが多いのでそれらを一つ一つ調べ整えていくと自然に良くなる場合が多いです。

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