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上肢部症状

1.肘関節痛

 

肘関節は、腕尺関節(蝶番関節)、腕橈関節(関節)、上橈尺関節(車軸関節)の3関節からなる。肘関節の一部となる上橈尺関節は、下橈尺関節とともに前腕の回内・回外に関与します。

 

②肘関節は主として肘の屈曲・伸展に働き、これには上腕の筋が作用しています。

a.肘の屈曲に働くのは上腕筋です。

b.上腕二頭筋は、橈骨粗面に停止するので、回外作用があり、前腕の回内位(掌を下に向けた状態)からの「回外を伴う屈曲」(ワイン栓のコルクを抜くような動作)でその作用を発揮します。

c.腕橈骨筋は、大部分は前腕にありますが、上腕部筋に分類され、その作用は半回内位における肘の屈伸です。

d.上腕三頭筋は肘関節の伸筋として作用しています。

 

2.肘内障 nursemaid's elbow, pulled elbow

橈骨頭は輪状靭帯によって尺骨の橈骨切痕に固定され、上橈尺関節を形成しています。親に手を引っ張られるなどして、前腕が回内状態で牽引さた結果、解剖学的に未発達な橈骨輪状靱帯から橈骨頭が逸脱した状態になったりします。成人での発症はまれです。非観血的に簡単に整復できることが多いですが、上腕骨顆上骨折を発症している恐れあるので、安易に肘内障と診断して整復するより整形外科を受診することをお勧めします。針灸は禁忌。

 

3.上腕三頭筋腱付着部症

 

1)上腕三頭筋の解剖

上腕三頭筋は、内側の長頭、外側の外側頭、深層の内側頭の3種からなります。前腕の伸展作用があり、停止はどれも尺骨肘頭です。

2)上腕三頭筋腱付着部症とは

加齢オーバーユース、多大な外力等により、上腕三頭筋の収縮が強いられると、肘頭の上腕三頭筋腱付着部に力学的ストレスが加わり、虚血微小断裂が起こり、痛みを訴えるまでになります。

 

4.上腕筋、上腕二頭筋の筋筋膜症

 

肘部痛が、上腕二頭筋上腕筋の関連痛による場合があります。上腕筋は肘関節の強力な屈筋です。上腕二頭筋は前腕屈曲作用の他に、手前腕が十分に屈曲していない場合には、手の回外運動の強力な補助筋となります。

 

5.テニス肘(上腕骨外側上顆炎)Tennis elbow

 

1)病態

単にテニス肘という場合、バックハンドテニス肘をさします。テニスのバックハンドでボールを打つ際、ラケットに加わる衝撃が、主として前腕の伸筋腱(とくに長・短橈側手根伸筋腱)付着部である上腕骨外側上顆に力学的ストレスを生じます。この反復により前腕伸筋腱の骨付着部および骨に炎症断裂が生じます。バックハンドで打つたびに痛みが出ます。主婦では雑巾絞りで起こりすいです。フォアハンドテニス肘はテニス上級者に多くみられます。トップスピンサーブストロークの際の手首のスナップが原因となります。痛む部位はゴルフ肘様となり、前腕屈筋群に負荷がかかり、その起始部である上腕骨内側上顆部痛が生じます。

※長・短手根伸筋の起始は上腕骨外側上顆で、停止は中手骨底。作用は手関節の伸展と外転。 すなわち手関節の背側負荷によりテニス肘を生じます。 なお腕橈骨筋は、上腕屈筋に分類されます。本筋は肘関節屈曲作用なので、テニス肘とは無関係。

 

2)バックハンドテニス肘の症状

手関節背屈時、前腕の回外時(前腕回外筋に負荷がかかるため←ドアノブを回す、タオルを絞る)の上腕骨外側上顆部痛。

ステージ1 テニス中に痛みはないが終了後に痛みます。

ステージ2 テニスのプレー中に痛み、プレーに支障をきたします。

ステージ3 日常生活で痛みテニスはできません。

 

6.ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎) Golf elbow

1)病態

効き腕とは反対側の肘(右効きの者では左肘)に生じます。ゴルフでボールを打つ際、左肘をのばし手関節を強く背屈・回内するため、手関節を屈曲作用のある前腕屈筋群に共通腱の起始部である上腕骨内側上顆部の腱骨膜に炎症が起こります。フォアハンドテニス肘ともよびます。

2)症状:上腕骨内側上顆部の運動時痛

 

7.野肘 Baseball elbow, Little league elbow

1)病態

小学校高学年から中学校低学年では肘の障害が多いです。成長期の障害の特徴は、骨端線(骨が成長していく力学的脆弱部)があるために、骨の障害を生じやすいからです。投球動作によって生ずる肘関節の障害を総称して野肘とよびます。投球の加速期において、肘内側には牽引力が加わり、外側には圧迫力が加わわります。これらのストレスによる軽微な損傷の繰返しにより障害が生じます。

※離断性骨軟骨炎

腕橈関節の骨軟骨が変性し壊死に陥り、次第に周囲から分離し、遊離体(関節鼠=関節包内の小骨片。遊離体が腕橈関節内に挟ると急に関節が動かなくなります)となります。10~20歳少年野の選手に好発。

 

第2節 手関節痛・手指痛

1)手指部腱鞘炎の病態生理

手指に至る腱で手関節走行部付近は腱鞘に包れ、腱を滑りやすくしていますが、腱への非生理的ストレス過度の反復運動は、腱鞘の充血肥厚を生じて腱と腱鞘間の摩擦が強くなります。その結果、関節運動により腱が動くと疼痛が起こるようになります。腱鞘炎の好発部位は、手関節の背側伸筋、尺側手根伸筋、長母指外転筋と短母指伸筋

※手掌側ではバネ指になりやすく、手背側では狭窄性腱鞘炎になりやすいです。

※化膿性腱鞘炎:手掌の屈筋の腱鞘には化膿性の炎症が起こることがあります。これを化膿性腱鞘炎とよびます。

この場合には腫脹・疼痛・指の屈曲拘縮が起こります。

 

2)ド・ケルバン病 De Quervain disease

①病態

長母指外転筋と短母指伸筋の共通腱鞘の狭窄性腱鞘炎。腱鞘炎のなかで最高頻度。

※長母指外転筋と短母指伸筋は、手首背側の中央から指3横指付近の橈側で、蛇頭とよばれる筋隆起を形成します。

②フィンケルステインテスト陽性 Finkelstein's test母指を他の4指に包ようにして拳骨をつくり、

小指側に手関節を屈曲させる。この動作で、手関節橈側に強い痛みが出現すれば陽性。

 

2.弾撥指(バネ指)Trigger finger

1)病態生理

指を屈曲させる際には、腕の筋が収縮し、その筋から指の末節骨で伸びた長い腱が腕側に引っ張られることで可能になります。指に向かう腱は、運動量が大きく力強大なので、他の組織との摩擦を防ぎ、滑りをよくするため、遠位中手骨から指先までを腱鞘で覆われています。それに加えて指の掌側には、要所に腱鞘位置を固定するため、輪状靱帯(=靱帯性腱鞘)が腱鞘を補強しています。通常の生活では、腱と輪状靱帯の機械的刺激により生じた炎症は一晩寝れば治りますが、一晩の間の修復できる範囲を超えたほどの無理を繰り返すことで、徐々に輪状靱帯は肥厚し、腱を締付けるまでになります(狭窄性腱鞘炎)。この結果、腱の一部にシワが寄り、シワは次第に大きくなって結節が生じます。結節が輪状靱帯中に収っているのは指を伸ばした時であって、結節が輪状靱帯をくぐらなければ指は伸びません。指を屈曲すると腱は腕方向に引っ張られて移動し、結節輪状靱帯から 出た状態になります。そして指を再伸展させようとすると、結節は輪状靱帯にぶつかり、伸展途中で、それ以上の指伸展が不能となります。バネ指は、中指、環指の指屈筋腱に好発し、中年女性に多いです。

 

2)症状・所見

指が一定の角度に達すると、自動運動が障害され、これを自動的・他動的に強制屈曲させるときには、弾撥性に屈曲します(バネ現象)。夜間就寝中に、無意識に指を屈曲するせいか、とくに起床後に指を再伸展させる際に強く痛みます。これをモーニングアタックとよびます。重度バネ指でなければ、無理に伸展させると、轢音を発し、完全伸展可能になります。MP関節掌側部の圧痛・運動痛。腫瘤を触知します。

 

3.ヘバーデン結節 Heberden node

1)病態:手指のDIP関節にみる変形性関節症で、40才以上の女性に多く原因不明。RAとの鑑別が重要。

※ブシャール結節 Bouchard node :手指のPIP関節にる変形性関節症。機序はヘバーデン結節と同じ。

2)主症状:単発または多発性に手のDIP関節が変形と疼痛および初期には炎症症状(赤く腫れる)を伴います。3ヶ月から数年の経過で、変形は残存するが痛みは消失します。患者の大多数は、変形を問題視しておらず、痛みを軽くしたいと思って来院されます。

 4.母指CM関節症 arthrosis of CM joint of thumb

1)病態

母指の第一中手骨と大菱形骨の間の関節をCM関節とよびます。母指は他の四指と向き合ってつまみ動作ができるように、大きな動きのある関節です。それだけにオーバーユースや老化に伴い、関節軟骨の摩耗が起きすく変形が起きすいです。進行すると関節が腫脹したり、亜脱臼することあります。

2)症状

母指の付け根の部分が腫れて出っ張ってくる、押すと痛みが出る、母指を動かしたり力を入れると痛みが出ます。

 

5.手根管症候群 CTS:Carpal tunnnel syndrome

1)病態生理

手根管とは、手根骨と屈筋支帯の間隙をいいます。ここを通る正中神経が圧迫刺激され、圧迫部から末梢の正中神経麻痺が生じた状態が、手根管症候群です。原因として、特発性、妊娠、骨折、腱鞘炎、RAなど。

※屈筋支帯:近位は豆状骨~舟状骨、遠位は有鉤骨~大菱形骨間を結びます。手根管が縦走します。屈筋支帯中央部に横手根靱帯があります。正中神経圧迫の好発部位。

※豆鉤靱帯:豆状骨~有鉤骨を結びます。ギヨン管が通ります。尺骨神経圧迫の好発部位。

2)症状

小指以外の指端の痛と異常知覚(ピリピリ、ジンジン)。進行すると母指萎縮し、ものをつまむ動作がしづらくなります。

 

6.ギヨン管症候群(尺骨神経管症候群) Guyon canal syndrome

1)原因:尺骨神経が、豆状骨と有鉤骨との間の尺骨神経管Guyon管)内で絞扼された状態。稀な疾患。

2)症状:小指部の萎縮、手の第4~5指の知覚異常

フローマン徴候(+)、チネルサイン(+)

☆フローマン Froment 徴候(+):母指と示指間での紙をつかうとする際、母指内転筋(尺骨神経支配)の筋力低下で紙をつかみにくくなる。代償として短母指屈筋(正中神経支配、母指末節の屈曲)が働き、母指MP関節を強く屈曲させ、紙をつかもうとする。☆チネルサイン:障害された末梢神経を確かめる検査です。障害部分を打腱器などで叩くと 障害部位の支配領域に放散痛が生じます。

[治療]:上肢と言っても末節骨、中節骨、基節骨、中手骨、手根骨、橈骨、尺骨・・・、種々あります。それらの骨に位置異常があれば、そこからも症状が起こります。特に手首に起こる症状で何かの原因で手根骨の凸凹が起こって生まれていることもよくあります。もちろん、他の骨や肩、首、胸椎からの原因で起こる場合もあります。どこから起こっているかを見極めるのが大切だと考えます。

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